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2008/11/28

ハゴロモ

Hagoromo20081127

「ハゴロモ」★★★★★
よしもと ばなな (著)




自分が体験したことがないことを、自分が知らないことを、このように書けるよしもとばなな。
自分のことを一切書いた事が無いなんて、話が天から勝手に降ってくるなんて、
現代の巫女みたいな人だな。
それで人を癒すのだから。




  十八の時から八年間も長く長く続いた愛人生活が終わったことに、
  私はまだ驚いていた。
  いつまでたっても、別れたことに慣れなかった。
  長さというものは、それ自体がひとつの生命を持つような感じで、
  いつのまにか思わぬ大きさにふくれあがっている。
  そのせいかいつでもなんだか不思議な疲れかた
  ・・・・・・まるで深い肩こりがなかなかとれないような感じで疲れていて、
  いつでも同じことをぐるぐる考えていたのですっかり頭も悪くなってしまったようだった。
  仲のいい両親の子供は世界を疑うことを知らないで育つことが多い。
  私のように。

  祖父と手をつないでいると、空と地面がぐんと近くなって、手に汗をかいた。
  多少恥ずかしくても、母の死におびえた子供の心は、その手をふりほどくことはなかった。
  祖父がいつか死んだとき、後悔したくない、と私は思っていた。
  手に汗をかいても、その時気恥ずかしくても、思い出がせまってきて苦しくても、
  後で思い出せば絶対に大切なんだ、と思っていた。
  そういう心配りに関しては、子供の心のほうがずっと繊細だった。

  「私は、ずっと変わった子と言われていたから、
  誰か変わった子がいても理解してあげられる環境を作りたかったの。
  忙しいけど、毎日いろいろあって面白いよ。
  体を使う仕事だから、気持ちいい疲れかただし。
  あまりにも子供と仲良くなりすぎると、お母さんたちがやたらにやきもちを焼くのも面白い。
  子供は、楽しくて落ち着いたものが大好きなんだよ、
  でもお母さんたちは、その反対の人が多いの。
  特に迎えに来るときは、すごくあせっているからね。
  好かれるこつはそれだけなんだけれどね。」

  私もプロではないので、確かなことは言えないけれど、
  今、彼女はふたつに分裂していて、
  ひとりはもうこのまま死んでしまいたい、というふうに思っているの。
  でももうひとりはその中で、すごくしっかりしていて、
  自分のしていることがよくよくわかっていて、
  ただきっかけをつかみたくてもがいている。
  そう思える。

  みつるくんのえらいところは、
  治らないお母さんをじゃまにしないで、
  今のお母さんとそれなりにつきあっているところだった。
  その境地は私にははかりしれなかった。
  普通だったら、治っている状態が本当だから、
  一日も早く、自分の都合のためにもそこに近づいてほしいという気持になるだろう。
  でも、彼はそうではなくて、せかす様子がまるでない。
  むしろ、これはこれでいいといった風情があった。

  そして突然、わかった。
  私は失恋してかわいそうな感じで東京を追われてきたので仕方なくここにいるわけではなくて、
  今、ひまだし好きこのんでここにいるのだ、
  そしてこれからもどこにいたっていいのだ、ということが。
  そうしたら、私をしばっていた鎖がまたひとる切れたのがよくわかった。
  重力から解き放たれ、一瞬、きれいな高みから世界を見おろす。
  「これこそが治癒の過程だわ、本でも書こうかしら・・・・・・。」




内容(「BOOK」データベースより)
失恋の痛みと、都会の疲れをいやすべく、ふるさとに舞い戻ったほたる。
大きな川の流れるその町で、これまでに失ったもの、忘れていた大切な何かを、彼女は取り戻せるだろうか…。
赤いダウンジャケットの青年との出会い。冷えた手をあたためた小さな手袋。
人と人との不思議な縁にみちびかれ、次第によみがえる記憶—。
ほっこりと、ふわりと言葉にくるまれる魔法のような物語。

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