
「流しのしたの骨」★★★★★
江國 香織 (著)
食卓を飾る枯れ葉、枝、石、くりのいが、すすき。
本を読むお手伝い。
家族の行事をたいせつにすること。
詩人で生活にこだわりを持つ母。
こういうお母さんにわたしはなりたい。
ハムスターを誕生日プレゼントにもらったときの反応がすてき。
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「茶色と白のまだらですか?」
と、期待をこめて訊いた。
父はひっそりとうなずく。
「ささやかで謙虚な、あるかなきかのかわいらしいしっぽをしているの?」
それは質問というより確認のようだった。
母は目をかがやかせ、次々父に確かめる。
鼻はピンク色ですか。
背中をなでるとビロードみたいにやわらかい?
手のひらにのせると四つの足はとても小さくて、
爬虫類みたいにつめたい足のうらをしているの?
興奮のあまり母の顔は上気していた。
母は化粧をしていないので、そうすると子供のような顔になる。
父は母の質問の一つ一つにうなずきながら、
なんとなく困ったような顔をしていた。
「ウィリアムね」
ついに結論をだすように母は言い、りぼんをほどいて箱の蓋をあける。
そこには母のいったとおりのハムスターが、首にりぼんを結ばれた格好で入っていた。
それがどうしてウィリアムなのかはわからないけれど、
そのハムスターのやわらかな体と賢そうな瞳、
ささやかで謙虚な、
あるかなきかのかわいらしいしっぽをみた途端に私たちは思った。
ああたしかにウィリアムだ、と。
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ね。
そして、タイトルの入った一節を読むとぞわぞわする。
「流しのしたの骨をみろっ」
ああ、なんて本を読むのは楽しいんだろう。
同じ本でも、ゆらゆら浮き上がってくる絵を感じながら読むときと、意識的にがっつり情景に色をつけて読むときはまた違う。
考え出したらとまらない。奥深い。本を読むということ。
読書好きは妄想好きとみた。
本を読んでいる時にトランス状態に入るって田口ランディがブログに書いてたけど、まさにそうだなと最近思う。
すごく気持いい。本によるけど。
ここまで来るのに随分時間がかかってしまった。
同じ本でも実用書はこれができないからあまり好きではない。
説明書は読む気がしない。頭に入らない。というか読まない。
旅芸人・福尾野歩氏の書いた解説改め「読後ライブ」がすごくおもしろかった。
書き出しは、
しま子ちゃんに 恋をした。
「あなたのお友達は左利きなの?」
二人になると、
私はずっと訊きたかったことを訊いてみた。
深町直人はよくわからない顔をする。
「ほら、あの二人ずっと手をつないでいたでしょう?
もともと左利きなのか、
それとも彼女と手をつないでいるために左手を使っていたのかしらって……」
ああ、と、深町直人は納得したように言った。
「左利きだよ」
私は感心した。
恋人が左利きだとすごく便利だ。
そう感想を述べると、深町直人はわらっていた。
「こと子」
意識的な声で母が言った。
薄化粧をした横顔はけっこうきれい。
「ぎんなんと本、どっちがいい?」
立ち上がり、
テーブルの上のお茶道具を片付けながら訊く。
「読む方」
私は言い、
濃いコーヒーの最後の数滴をのみほした。
これは私たちが子供の頃からさせられていた「お手伝い」の一つで、
ぎんなんをむくとかぎょうざの具を包むとか、
さやえんどうのすじをとるとかいう単純作業を母がするときに、
そばで本を読んであげるのだ。
そうでなきゃ時間がもったいない、と母は言う。
小さい頃、私たちはみんなこの「お手伝い」が好きだった。
攻撃が最大の防御だと知っているのだ。
「ボーイフレンドって素敵よね。
いるあいだはたのしいし、
いなくなると気持いい」
おりがみは気持ちの落ち着く遊びだ。
とくにはじめてのものを折る場合、
本の指示に従って忠実にやることが大切なので、
集中するし頭がからっぽになる。
いつかそよちゃんにそう言ったところ、
それじゃあそれはお菓子をつくるのと一緒ね、
と、そよちゃんが言った。
そうなのかもしれない。
ひとそれぞれいろんなやり方があるものだ。
「そよちゃん」
私は、台所に立つ姉の後ろ姿に向かって言った。
「離婚するってどんな気持ちのもの?」
そよちゃんは鍋をみたまま少しだけ考えて、
それから微笑みを含んだ声でおっとりと、
「そうねえ、半殺しにされたままの状態で旅にでるような気持ち、かしら」
本人が気づいているかどうかはわからないけれど、
そよちゃんはこういうことが上手だ。
こういうことというのはある種の告白。
しま子ちゃんみたいに、
夜ごはんの席で突如として宣言するようなことはしない。
一人一人味方にしていくのだ。
よそのうちのなかをみるのはおもしろい。
その独自性、その閉鎖性。
たとえお隣でも、よそのうちは外国よりも遠い。
ちがう空気が流れている。
(あとがきより)
内容(「BOOK」データベースより)
私、もし誰かを殺してしまったら骨は流しのしたにかくすと思う。
19歳の私と不思議な家族たちの物語。